月ときなこと宝塚

宝塚は幸せの歌

月組『新源氏物語』(89年) の思い出 - 声から入る宝塚

 先日、月組『DEATH TAKES A HOLIDAY』の一般前売で思わずチケットが取れて、とても楽しみにしている私です。今日のタカラヅカ・ニュースでも、桃歌雪さんが稽古場の話をされていて、音楽が何重唱にもなっていて『グランドホテル』を思い出すとか、おだちん(風間柚乃さん)が意外と初のお父さん役だとか、その他いろいろ…ああ楽しみ。来月の公演が待ち遠しいです。

 

 話題はがらりと変わりまして、今日のお話は…

月組『新源氏物語』(1989年)

 先週、スカイ・ステージで1989年の月組公演『新源氏物語』が放送されました(5月23日にも放送予定)。剣幸さん・こだま愛さんがトップの頃の公演です。

 この月組『新源氏物語』は、私が初めて宝塚歌劇というものに出会った作品でした。といっても、観劇に行ったのでも映像を見たのでもなく、実況CDでハマったという…。

 当時、私はまだ子供で宝塚をまったく知らなかったのですが、友達一家がいきなり宝塚にハマりだして、『新源氏』の実況CDを貸してくれました。CDには歌も台詞もほぼ全部入っていて、それを聴いてどハマりしたのでした。『新源氏』は歌が多く、それが子供心に楽しくて、歌を通して描かれる源氏物語の世界に夢中になりました。

 歌も台詞も全部覚え、毎日毎日、CDに付いているわずかな写真や、友達がくれた公演チラシと舞台写真をもとに、『新源氏』を脳内上演していました。その後テレビで放送された舞台映像を見たら、想像していたのと演出が違ってすごく面白かった…という何とも悠長な思い出があります。

 ちなみに持っていた写真は:

  • 剣幸さん(白い束帯の光源氏。ブロマイド)
  • こだま愛さん(プロローグの藤壺)← 美しい。好き。家宝
  • 涼風真世さん(紅葉の宴のシーンの夕霧)
  • 剣さん・こだまさん(天の川の幻想シーン)← めちゃくちゃかわいい

…と書くとおわかりのように、私はこだま愛さんの大ファンです。そして、剣さん・こだまさん・涼風さんの月組が大好きでした。

声から入る宝塚

 いきなりですが、私は声で人を好きになるタイプの人間です。自分の波長に合う声というものがあって、そういう声の人は、たいてい顔も好みだったり性格も合ったりすることが多い気がします(ビジュアル派の人は、目で同じようなことを感じているのかも?)。

 『新源氏物語』で大好きになったのが、こだま愛さんと羽根知里さんでした。こだまさんは言わずと知れたトップ娘役のミミさんで、藤壺の女御役(私はいまだに「こだまさん」呼び)。はねちゃんは、六条御息所に仕える中将の君と、影の主役とも言える影ソロ担当。お二人とも声が美しく、こだまさんはとくに台詞の声が、はねちゃんは影ソロの歌声が大好きになりました。

 

 こだまさんの藤壺は、それはそれはきれいな声なんです。

  • 源氏が子供の頃の「これからは仲良くいたしましょうね」
  • 源氏が忍んできたときの「命婦?」
  • 「光の君さま…」(いろんなシーンで言う)
  • 天の川の幻想シーンの「あっ、流れ星!」

とか、そりゃ源氏も恋しちゃうよと思います。

 ちなみに幻想シーンというのは、藤壺と会えない源氏が、幻想の中で庶民の男女として藤壺と七夕を過ごす…という歌と踊りのシーンです(放送ではカットされていて残念)。ここの一言だけこだまさんは町娘系の声なのですが、この多彩な声が大好きなのです。

 今回『新源氏』を久々に見て思ったのは、藤壺の声は、光源氏が「優しい姉のようで、母のようで…」と慕った声を再現していて、源氏にとってどう聞こえたか?が反映されているのかも…と。劇中でも、源氏との関係の変化に応じて変わっている気がします。

 その後、舞台を見たり、『ME AND MY GIRL』とか色んな実況CDを聞いたりして改めて思うのですが、こだまさんは役によって声が大きく変わります。歌声も、地声で全部歌ったかと思えば高音の歌も美しく、役や場面に応じて本当に多彩。そんな、私にとって最強の声を持つこだまさんは、ダンサーとしての方が有名かもしれません。私も、こだまさんの生命力あふれるダンスが大大大好きでした。何というスーパー娘役。

 

 はねちゃんの方は、歌がとにかく好き。プロローグ「恋の曼陀羅」2番影ソロ(「こーいのーざんこくー」の歌い方が超好き)、源氏と藤壺の逢瀬シーン「ただ一人の女」影ソロ(「紫の~藤の花影~」)とか、ひたすら美しい。美しいだけでなく、シーンに必要な情報と情感が、出すぎず引きすぎず必要な強さで全部入っている。

 逢瀬のシーンは、源氏と藤壺の歌と台詞が少しあるほかは、ほとんど影ソロをバックにした仕草と舞で表現されます。それが見事に合わさって、源氏の覚悟や欲望、藤壺の迷いや激しさが、直接言うよりもはるかに強い感情で伝わってきます。剣さん・こだまさんの表情と動きも素晴らしいですし、二人の心の起伏に寄り添うようなはねちゃんの影ソロも、それは見事な表現力だと思います。

 

 まあ…私は『新源氏物語』を観劇していませんし、映像どころか最初はCDの音声でしか知りませんでした。それでも、月組の皆さんの声、歌、コーラス、そして音楽は、子供の私に源氏物語の世界を想像させるのに十分な魅力と情報量を持っていました(コーラスが物語の「地の文」とも言える重要な位置を占めていたのも大きかったかもしれない)。

 今回久しぶりに『新源氏』を見ましたが、やっぱり耳福~。あと、『新源氏』といえば華やかな王朝絵巻プロローグで始まりますが、幕開けで超美声の涼風真世さんが歌っています(1番が涼風さん、2番が影ソロはねちゃん)。娘役の声で宝塚を好きになった私ですが、その後男役という存在に慣れると、涼風さんの歌声も大好きになりました。『新源氏物語』という耳に幸せな演目で宝塚を知ることができたのは、本当に幸運だったなと思います。

実況CDで知った「芝居の月組

 『新源氏』のあと、私は宝塚を観劇するようになるのですが(初観劇は雪組ベルサイユのばら - アンドレとオスカル編』)、劇場に通う傍ら、次々と月組の実況CDに手を出していきました。『ME AND MY GIRL』、『南の哀愁/ビバ!シバ!』、『恋と霧笛と銀時計/レインボー・シャワー』、『心中・恋の大和路』などなど。

 というのは、うちにはビデオデッキがなかったので映像はテレビ放送を待つしかなく、おまけに次の月組公演『天使の微笑・悪魔の涙/レッド・ホット・ラブ』は東京公演がなくて(後に地方公演で見た)、なかなか月組公演が見られなかったのです。

 

 実況CDを聞いては脳内宝塚を楽しんでいるうちに、私は遅ればせながら剣幸さんのお芝居の面白さに目覚めました。剣さんの声は、聞いていてワクワクする。テンポが良くて、リズムがあって、聞いてるだけで気持ちいい。当たり前すぎて忘れがちですが、台詞回しの面白さというのは、お芝居の楽しさの根幹ではないかと思います。それを、私は剣さんのお芝居で知りました。

 とくに聞いたのがやっぱり『ME AND MY GIRL』。もう抜群に面白かった。剣さんは信じられないくらい滑舌がよくて、自在に台詞を操り(アドリブも入れ)、声の出し方が多彩で、間が絶妙で、ついビルのペースに乗せられる。私はミーマイの歌がどれも大好きですが、もし歌がなかったとしても、剣さんのミーマイは面白かったと思います。サリーのこだまさんもそれはそれはチャーミングでしたし、月組の皆さんのお芝居も絶妙で、聞いているだけで最高に面白かった(本当は、すごく見てみたかったけども…)。

 「芝居の月組」という言葉がいつからあるのかは知りませんが、私にとってこの頃の月組はまさしく「芝居の月組」でした。私の場合、ショーより台詞のあるお芝居の方が脳内上演しやすかったという特殊事情?もあり、月組のお芝居がとにかく大好きでした(もちろん、その後ショーも大好きになった)。

 剣さん・こだまさんは『新源氏物語』の翌年退団されたので、私がこの月組を見られたのは1年くらいでしたが、お芝居が神様のようにうまい剣さん、声がきれいでダンスが神様のようにうまいこだまさん、歌が神様のようにうまい涼風さん(しかも皆さん、他の技術もめちゃくちゃハイレベル)を中心とする月組は、私にとって忘れられない宝塚の原点です。

 

 そういえば、昨年スカステで、2022年に行われた剣さん・こだまさんのディナーショー『Once in a Blue Moon』が放送されたのですが(ありがとうスカステ!)、そこでなんと、お二人が光源氏藤壺の逢瀬シーンの歌「ただ一人の女」をデュエットしていました! はねちゃんの影ソロが大好きだったこのシーンですが、ご本人たちが歌うというのはまた別世界の夢みたいだなぁ…と。直後のお二人の夫婦漫才のようなトーク (笑) を含め、見られて幸せでした。

 1989年月組『新源氏物語』は、5月23日にもスカステで放送があるそうなので、ご興味のある方はぜひ。

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