月ときなこと宝塚

宝塚は幸せの歌

風間柚乃さんで見たい役②

 前回に引き続き、私が個人的に風間柚乃さんで見てみたい役のお話です。

 風間さんといえば、『ME AND MY GIRL』のビルが似合いそうなところ(実際「夢の音楽会」の彩乃かなみさんとのデュエットは素晴らしかった)、お芝居が巧みなところ、何となく感じる温かさなどなどから、私はつい剣幸さんの面影を見てしまいます。

 一方で、風間さんは涼風真世さんに通じる魅力を持っているな…とも強く感じます。個性的な役の数々とは別に、オフステージで見せる素顔や言葉、何より歌声には驚くほど透明感があり、私は風間さんは妖精さんじゃないかと思っている。

 …あー。もちろんファンの戯言ですし、風間さんご本人が知ったら私はそんなんじゃないと仰るかもしれませんが、『PUCK』はきっと似合うと思うんです。収拾が付かないのでさっそく本題に…。

『PUCK』のパック

 私は昔、涼風真世さんの『PUCK』(1992年月組) が大好きでした。涼風さんの七色の声を生かした素晴らしい歌の数々。フェアリーと呼ばれた涼風さんの持ち味を生かし、かつ逆手に取って驚かせてくれた妖精パックという役。初めて観たときの、おそらく観客みんなが感じたであろう「代表作が来た!」という震えるような興奮は忘れられません。

 『PUCK』はシェイクスピアの『真夏の夜の夢』をベースにした小池修一郎さんの作品です。2014年に月組で再演されていてこちらも素晴らしいのですが、私は初演の印象があまりに強く、今日は初演のお話です。(以下、ネタバレします)

 

 舞台は現代のイギリス。貴族グレイヴィル家の森では、ミッドサマーイブ(夏至前夜)を祝う音楽祭が開催されていた。そのさなか、森で妖精パック(涼風真世さん)が誕生する。好奇心旺盛なパックは人間界に遊びにいき、グレイヴィル家の令嬢ハーミア(麻乃佳世さん)に見つかってしまう。妖精はふつう人間の目には見えないが、ハーミアはそれが見える「セカンドサイト」の持ち主だったのだ。二人は友達になる。そしてパックはハーミアに、いつも見守っている、困ったときは助けにくる…と約束する。

 月日は瞬く間に過ぎ…グレイヴィル家は経済的に困窮し、大人になったハーミアもセカンドサイトを失ってしまう。そして今年の音楽祭、グレイヴィル家を巡る人々の思惑、妖精界を巡る色んな事情が絡まって大騒動が起こる(それが非常に面白いのですが、長く複雑になるのではしょらせてください…)。

 自分を忘れてしまったハーミアに腹を立てるパックだが、そばに立つと恋しくてたまらない。「ハーミア、どうしてそんなにきれいなんだ?」と語りかける恋する妖精の姿に、胸がきゅ~っとなります。夜の森の魔法か、パックの呼びかけにハーミアはだんだんパックを思い出し(ハーミアも、日記に書いた妖精のことをはっきり思い出せないことをもどかしく思っていた)、ついに姿が見えるように。パックはハーミアにキスをする。

 パックは初め、涼風さんの中性的な少年っぽさを生かしたまさに歌の妖精(涼風さんの魅力①)。それが、ハーミアに恋して「男」になっていく。この時点でパックの声は完全に男役の声です。フェアリー涼風さんから発せられる、ギャップあるあの男らしい声(涼風さんの魅力②)。パックという役に涼風さんの魅力が凝縮されていて、当て書きって本当に素晴らしい。

 

 しかし、人間に恋をしたパックは妖精王の怒りを買い、声を奪われて人間界に落とされる。声を出さなければいつか妖精界に戻れるのだが、声を出せば記憶をすべて奪われてただの人間になってしまう。ちなみに、森にいたハーミアたち人間も、その夜の記憶はすっかりなくしていた。

 パックは倒れているところを発見され、グレイヴィル家で世話になる。この頃、グレイヴィル家は屋敷を宿泊所にして何とか食いつないでいて、パックは声の出ない従業員として働く。どんな労働も、ハーミアのそばならうれしい…涼風さんと麻乃さんが無言で繰り広げるかわいらしい日々の積み重ね(その模様を歌う妖精役たちがまた素晴らしい)。あの「歌の涼風さん」が声を発しない数十分があるなんて…。

 それでもグレイヴィル家の財政は悪化し、屋敷や森を売らなければならない状況になる。昔からハーミアを好きだったホテル王のダニー(久世星佳さん)が、ハーミアとの結婚を条件に借金を肩代わりすると言う。森をリゾートにはしないという条件で、ハーミアは承諾する。

 しかし、ダニーは結婚した上で森にリゾートホテルを建てようとしている。その悪巧みにパックは気付き、それを最後の音楽祭に集まったハーミアの幼なじみたちに示す。スター歌手になったボビー(天海祐希さん)を中心に、音楽祭で森を守るチャリティを呼びかけるという計画を立てるのだが、手違いでボビーが本番中に倒れてしまう。

 絶体絶命かと思われたそのとき、パックが歌い出す。声を出せばすべてを失うことを承知で。このときの歌が、月組を代表する名曲「Lover's Green」。この、数十分声を聞けなかった後に響く涼風さんの歌声が、音楽そのものの素晴らしさと相まってしみるしみる(涼風さんの魅力③+∞)。こんな素晴らしい座付き作家の仕事ってあるだろうか…と今でも思います。

風間さんと妖精(どういう見出し…)

 『PUCK』は主役カップル以外にも魅力的な役がたくさんあって、色んな人が色んな歌を歌い、劇場中を走り回り(ローラースケートまで履いていた)、とても楽しい作品でした。また見たいな~とときどき思い返す作品のひとつです。前置きが非常に長くなりましたが、それを風間さんで見たいなと思うわけです。

 風間さんは濃い役もお上手だし、まあ、実際濃くもあるけれど(『Deep Sea』はほんとに楽しかった)、でも私はそれ以上に、風間さんには透明感を感じています。

 昨年、初めてファーストフォトブックというものを買いました。『宝塚1stフォトブック 2022~2023 風間柚乃』はかっこいい風間さん満載で、おお~と思って楽しくページをめくっていたら、普段着?姿の風間さんが、朝の窓辺でお水飲んだりお花に水をやったりしている写真がありました。なんか、それを見て、妖精かな?と。

 何書いてんだかと思いますが、ほんと美しい少年の妖精みたいで、これにとんがり耳を付けたら妖精パックそのものじゃないか…とそのとき思ったわけなんです。

 

 劇団だって、風間さんを『グランドホテル』新人公演のオットー(初演は涼風さん)に抜擢したり、『All for One』のジョルジュや『THE LAST PARTY』の公園の学生役などに選んだり、風間さんのピュアといえるような部分を確かに評価していると感じます。(それにフォトブックで礼華さん・大楠さんに「意外と乙女」と言われているし、月組本では月城さんに「ピュアピュアな赤ちゃん」と言われているし…)

 あと、風間さんのフェアリー成分が出ていると感じるのは、『WELCOME TO TAKARAZUKA -雪と月と花と-』の「花の巻」の、鏡の中の月城さん役。とてもかわいらしく(と男役さんに言っていいのかわかりませんが)、ユーモラスでポジティブな、何とも和むいい役だな~と。

 濃い風間さん、うまい風間さん、男らしい風間さん、怪しげな風間さん、誠実な風間さん、悪い風間さん、面白い風間さん、かっこいい風間さん…山ほどある風間さんの魅力の中に、透明感あふれる風間さんがきっといるような気がします。もしかすると風間さんが目指す男役像とは違うのかもしれませんが、一度でいいからピュアそのものの役を見てみたいです。

 

 それに何といっても、風間さんの声はきれいです。ずっとスカステや配信で聴いてきて、きれいな声だな~いい声だな~と思っていた風間さんの声を、私は『応天の門』『Deep Sea』で初めて生で聴きました。本当に美しかった。「秘密の花園」のファルセットはもちろん、普段の男役歌唱も、台詞の声も。声だけでなく姿も。『応天の門』の藤原基経は信じられない美しさだった(語彙力が…)。

 風間さんの声はその他にも、こぶし回したり、掛け声飛ばしたり、自由自在に歌ったり、表現が多彩なのが本当に魅力的。ぜひ、七色の声を持つ涼風さんの代表作『PUCK』で真っ正面から聴いてみたいです。パックは歌の妖精でしかも男らしい…風間さんにぴったりなんじゃないかなと。

 もちろん、いつか風間さんの持ち味にぴったりの当て書き作品が現れたら一番うれしいです。その役は、私たちがまだ知らない風間さんの新たな側面なのかもしれないと思うと…あー今から楽しみ。

 

 と、まとめておいて恐縮ですが、私はどうしても風間さんのオスカルを見てみたくて…次回はそれについて書いてみたいと思います。