月ときなこと宝塚

宝塚は幸せの歌

風間柚乃さんで見たい役③

 前々回前回に引き続き、私が個人的に風間柚乃さんで見てみたい役のお話です。最後は『ベルサイユのばら』のオスカル様。

 『ベルサイユのばら』といえば宝塚を代表する演目で、主役のひとりオスカルは、「男装の麗人」という宝塚の男役を象徴するような役どころです。

 でもオスカルは、男役さんにとってすごく難しい役なんじゃないかなとも思います。男装した女性である男役が演じるからといって、そのままではいつもの「宝塚の男性像」になってしまうし、オスカルが女性であることを意識しすぎると、たぶん娘役が演じる以上に女っぽさが際立ってしまう。

 そんな「男」と「女」の綱渡りのようなバランスを、風間さんだったらどんなふうに演じるのかな~と興味があります。まあ、ブロンドの髪に赤い軍服姿の凜々しい風間さんオスカルが見たい…という素朴な願望も大きいです。きっと美しい。

宝塚の『ベルサイユのばら

 私は1990年代の「平成のベルばら」を観た世代です(21世紀のは映像で見た)。

 中でも好きだったのが、花組「フェルゼン編」でした(フェルゼン 大浦みずきさん、マリー・アントワネット ひびき美都さん、アンドレ 朝香じゅんさん、オスカル 安寿ミラさん)。「フェルゼン編」は、「フェルゼンとアントワネット」と「オスカルとアンドレ」という2つの軸のバランスが良かったように思います。(追記:後で映像を見返したところ、もっと話のバランスがいいのは「フェルゼンとマリー・アントワネット編」かもしれません)

 何よりも、私はヤンさん(安寿ミラさん)のオスカルが大好きでした。ヤンさんのオスカルはすごく凜々しかった。私はあまりオスカルに女を感じたくない派なのですが、ヤンさんのオスカルは、男装で男と渡り合う強さ、その中に隠れた女心、強がりと繊細さ…そういうものが絶妙なバランスで「男装の麗人」を形成していた気がします。

 それと、ヤンさんのオスカルは何だか人間味がありました。仕事がんばったり、失恋したり、生き方を悩んだり、オスカルってすごくがんばって生きてるんだな…とオスカルに親しみを感じたのは初めてです。同じ女性として人間として応援したくなるような。そう共感しつつ、目に見えるオスカルはそんな同情?を寄せ付けずどこまでも凜々しい。オスカルが強い人だからではなく、強くあろうと自分を奮い立たせている姿が神々しいのかも…と思いました(それができる人は本当に強いのだとも思う)。

 

 そんなオスカルに影のように寄り添うルコさん(朝香じゅんさん)のアンドレがまた素晴らしくて。オスカルのがんばりを理解し、弱さも強さも受け止めつつ、オスカルの人間性を尊重している…そんな理想の男性のようなアンドレです。アンドレは原作でも、独占欲に近い恋心から大きな愛へと気持ちが変化する人物ですが、ルコさんのアンドレはそのとおり大きくオスカルを包み込み、オスカルのそばにこの人がいて良かったと心底思うアンドレでした。

 ヤンさんオスカルの、神々しさと人間らしさ(凜々しさと親しみやすさ)が両立するってすごいことだなと思っていたのですが、これってアンドレの目に映っていたオスカルそのものかも…とふと思いました。あのオスカル像は、ヤンさんとルコさんの共同作業で生まれた奇跡のような人物だったのかもしれないな~と。

風間さんのオスカル

 風間さんがオスカルを演じるとしたら、どういうバランスのオスカルになるのか、とても興味があります。ヤンさん系の凜々しいオスカルなんじゃないかなとも思いますが、私が想像もしていないオスカルが誕生するのかもしれません。それならそれで大歓喜。風間さんはオスカルをどう思ってるんだろう?(大きなお世話…)

 私が風間さんオスカルで見てみたい原作シーンがありまして。(以下、原作漫画『ベルサイユのばら』のネタバレがあります)

 

 それは、オスカルがドレスを着て舞踏会に行き(外国の伯爵夫人として素性を隠して)、フェルゼンと踊る…というシーンです。オスカルはフェルゼンへの叶わぬ恋に耐えかねて、一度だけ、決して着ようとしなかったドレスを着て、女としてフェルゼンの腕の中で踊るのです。これで恋を諦めようとするオスカルも切ないし、それを見送るアンドレも切ない…。

 原作では、この前後の流れがけっこう重要な転換点となっています。というのは、ここで貴族を狙う義賊「黒い騎士」(ベルナール)が登場するのですが、ベルナールと関わる中で、後半につながる色んなことが起こります。

  • オスカルがフランスの現状を知る → 近衛隊をやめる原因
  • 戦いの中でアンドレが片目を失う → 後の失明の原因
  • オスカルがフェルゼンに失恋する → アンドレがオスカルに告白
  • ベルナールとロザリーが結婚する → バスティーユの陥落、アントワネットの最期まで関わる

なので、お話的にもこのシーンがあってもいいんじゃないかなと思うわけです。もちろん、見どころもたくさんあります。

舞踏会前

  • ばあやにコルセット締められて「苦しいではないか!」とか叫ぶオスカル
  • きっと美しい風間さんの本気のドレス姿
  • あいつはドレスなんて似合わないと言っといて、思わず見とれるアンドレ
  • 初めてドレスを着て、歩いたとたんに転ぶオスカル
  • 「俺のオスカル」のドレス姿はフェルゼンのためなのか…と胸を焦がすアンドレ

舞踏会

  • フェルゼンとオスカルのダンス
  • 夢に見たフェルゼンの腕の中で踊り、これで恋を諦められる…と思うオスカル
  • 踊りながら、あなたに似た人を知っている…とオスカルについて語るフェルゼン
  • フェルゼンに気付かれそうになり、逃げるオスカル
  • 逃げた先で黒い騎士に襲われ、ドレスのまま反撃するオスカル (笑) 

舞踏会後

  • 黒い騎士との戦いで片目を失うアンドレ(お前の目じゃなくてよかった…に涙)
  • 後日、軍服姿のオスカルと会って、不意にオスカルの髪をかき上げるフェルゼン(舞踏会での髪型にする)。やはりお前だったのか!とバレる
  • 私の心は王妃様のもの、お前は最高の友達だ(意訳)と見事に振られるオスカル
  • 傷心のオスカルに、ついにアンドレが激しい愛を告白

…と、なかなか面白い展開ではありませんでしょうか。

 

 実はさっきから、私の脳内では当たり前のように月城さんフェルゼンと風間さんオスカルがこのシーンを繰り広げています。アンドレは、大劇場版では鳳月さん、全国ツアー版では礼華はるさんがつとめていらっしゃいます(勝手に振り分けてすみません)。

 や~、月城さんに髪をかき上げられて顔色変える風間さんとか、こっぴどく振られて傷心の風間さんとか見てみたくて。そんな風間さんに愛を告白する鳳月さん/礼華さんや、アンドレへの愛に気付いていく風間さんも。何か、今までにない新しいオスカルとアンドレの関係性が生まれそうな気もします。「今宵ひと夜」とかどうなるんだろう?

 

 宝塚の『ベルサイユのばら』はいろいろ思うところもあるのですが(男尊女卑の台詞・行動、旧式の場面転換、多すぎる回想…。個人的にバスティーユアンドレ・オスカル最期は、ぜひ回想ではなくリアルタイムの出来事として見たい)。でも、好きな組、好きなジェンヌさんの「ベルばら」を一度は見てみたいな~と思ってしまいます。

 ここまでスケールが大きくてドラマチックな作品ってそうそうないし、登場人物がみんな、欠点含めて魅力的です。あの豪華な衣装もみんなに着てほしい。それに、宝塚にとって『ベルサイユのばら』は、ただ「大作」というだけでない意義があると思うんです。

 大げさな話ですが、芸能の各ジャンルには宿命のような演目がある気がします。例えば、トゥシューズまで発明して天上方向を志向したバレエにとって、湖から飛び立つ白鳥を主役とする『白鳥の湖』は宿命的な演目です。女性が男性を演じる宝塚にとっては、「男装の麗人」を描いた『ベルサイユのばら』は宿命の演目のように感じるのです。

 そういう演目は、古典作品として定期的に上演したらいいんじゃないかなと。古典の楽しみって、時代、演者、演出によって表現が変わっていくところだと思うので、「ベルばら」も必要なところはアップデートしつつ、新しい「令和のベルばら」が見られたらうれしいです。そして、そんな宝塚の象徴みたいなオスカルを、風間さんで見てみたいです(そこに落ち着く)。

 

 3回にもわたり、私が見たい風間さんの役について語ってしまいました。あくまでも、私が風間さんから受けた印象・イメージが元になっているので、的外れなこともあるかもしれません。お許しください。

 学年が上がると、渋い役や個性的な役も多くなると思いますが(若い頃からそういう役も多かった風間さんですが)、風間さんの恋する役、透明感のある役、男装の麗人や、若々しい役、明るい役なども見てみたいな~と思った次第です。

 『フリューゲル』は、ポスターを見るかぎり、若々しくて明るそうな(容疑者?)役みたいなので、すごく楽しみです。もちろん、その前に『DEATH TAKES A HOLIDAY』の公爵役も!