月ときなこと宝塚

宝塚は幸せの歌

音くり寿さん出演『星の数ほど夜を数えて』を観劇

 このブログは宝塚ブログなので、タイトルを上記のようにさせていただきましたが、先日、TipTapのミュージカル『星の数ほど夜を数えて』を観にいきました。

あらすじ

大学の天文サークルで出会った夫婦。娘も自立し、仕事をリタイアして悠々自適の老後を送ろうとしていた矢先。

妻が認知症だと診断される。薄れていく記憶の中、妻は夫にあるお願いをする。

夫はその願いを叶えることができるのか。愛する妻と人生の終わりに向かって歩き始めた夫。

二人が選び取る幸せとは?

https://tiptap.jp/next/

 劇場は、東京スカイツリーに近い「すみだパークシアター倉」。親水公園沿いにあり、錦糸町や押上の駅から15分ほど。黄昏時の水辺をのんびり歩きながら、劇場に向かいました。蝉の声の下で、子供たちが水に入ってバシャバシャ水遊びをしている。見上げれば、夕空にそびえるスカイツリー。なんだか懐かしいような、妙に未来的なような、不思議な気分になって劇場に着きました。

終演後の舞台。撮影・掲載可とのことで、ありがたく掲載させていただきました。

 劇場に入ると、舞台には幕がなく、正方形に近い奥行きのあるフロアにすでにセットが置かれていました。中央に台と、その上にベンチが一つ。劇中では、これが家にも庭にも、病院にもタクシーの車内にもなります。奥の壁一面に、星空のように照明が無数に光っていてとても幻想的。客席は、劇場サイトによると150席くらいでしょうか。

 『星の数ほど夜を数えて』はミュージカルなのですが、開演前から、舞台後方で音楽家の皆さんがめいめい音を出していました。ピアノ、ギター、バイオリン、チェロ。

 そして開演直前、まだ暗い舞台上に演者の皆さんが登場し、それぞれ位置に着く。私は上手側の席だったのですが、目の前数メートルのところに音くり寿さんが歩いてきて、スツールに座りました。思いがけない登場に、なんだか信じられない気持ちになって、思わず暗闇のなか音くりちゃんをガン見…(すみません笑)。

 

 今回の公演、私は音くり寿さんの舞台姿を見たくてチケットを取りました。ほとんど映像でしか見たことがありませんが、宝塚の音くりちゃんが大好きでした。宝塚時代を観にいけばよかったという心残りは今もありますが、一方で、私は宝塚退団後の音くり寿さんの方が見てみたいのかも…という予感もいつもありました。

 お芝居が始まって、第一声がくり寿さんでした。最初の歌も。クリアなセリフときれいな歌声。あの音くりちゃんだ!と思いましたが、歌うにつれて、くり寿さんの体から自然に出る、宝塚時代よりは低い地声の歌がとても心地よく響いてきました(もちろん高音も美しい)。初めて表情がハッキリと見える距離で音くり寿さんを見ながら、私はこういうくり寿さんが見たかったんだなと、なんだか納得した気持ちになりました。

 

 お芝居の内容は、まだ上演中なので詳しくは書かないようにしますが、認知症になった妻(白木美貴子さん)と、それを支える夫(今井清隆さん)の最後の日々を、娘(音くり寿さん)の視点から回想するというお話です。その周りにケアマネージャー(内藤大希さん)、医者・調査員・ヘルパー(千田阿紗子さん)など、二人を支えるいろんな人たちもいますが、出演者は5人だけ。

 皆さん声も歌も素晴らしく、5人だけでこれだけ豊かな舞台空間が生まれるんだなと感動しました。ソロも合唱も、お芝居も。自然に歌が始まり、自然にセリフになっていく。生演奏の音楽も本当に素敵でした。

 お話は夫と妻を中心に進み、他の役者さんは出番がないとき、照明の当たらない舞台上のいろんなところに座って中央のお芝居を見たり、役柄が変わるときは着替えたり、場面転換の小道具を運んだりします。この時、ライトの当たっていない音くり寿さんをまたしても見てしまうわけですが、表情が柔らかくて、ああ、この役のくり寿さんを見られてよかったなとつくづく思いました。

 

 ときどき、ミュージカルにとって歌とは何だろう?と思ったりします。今回、認知症の検査を受ける妻が、医者の言っている言葉がわからなくて戸惑う…その気持ちが歌になっていました。その途端、今まで医者と妻を客観的に横から見ている感じだったのが、スポッと妻の気持ちに同化しました。この感じがミュージカルの醍醐味の一つなのかもしれません。

 私はよく、お話に没頭するよりもいろいろ考えながら見てしまうのですが、でもだんだん見ているうちに、妻の、夫の苦悩に、夫婦の姿に、娘の思いに、涙が止まらなくなって、マスクの中が大変なことになりました笑。

 

 今回のお芝居は、役に個人名がありません。妻、夫、娘、ケアマネージャー、医者…。役割を表す役名のみ。だからか余計に、自分のこととしていろいろ考えてしまいました。

 一つだけ、主人公夫婦はまだそこまで老齢ではないのに、認知症というだけで人生の終わりを考えなくてはいけないのだろうか?という引っかかりを感じました。でも、違和感を覚える箇所というのは大抵、自分自身が引っかかっていることなんだと思います。

 自分の両親のことや、夫、夫の両親のこと。仕事の忙しさに紛れて放置しているいろんなこと。両親の年や自分の年。私はもう人生を折り返したんだろうか? などなど。そんな諸々について、ちゃんと時間をとって考えようと思いました。…まあ、お芝居とは関係のない個人的な感想ではあるのですが。

 

 今回の劇場「すみだパークシアター倉」は、天井がとても高く、奥行きがあって、星をテーマとする本作にはぴったりな空間でした。見ているうちに、星空に浮かんでいるような気分になり、こんな空間に体ごと包まれる劇場での観劇は、やっぱり特別なひと時なんだなと改めて思いました。

 と同時に、舞台上のほんのり明るい「現在」という一瞬を、宇宙的な時空からほんの束の間見させてもらった気分にもなりました。私の人生も、星から見ればほんの一瞬。でも私にとってはこれがすべて。もう少し大切に生きていこう…と思うような、そんな舞台でした。

 この作品と出会わせてくれた音くり寿さん、素晴らしい出演者の皆さん、スタッフの皆さん、素敵な舞台をありがとうございました。シナリオも買ったのでじっくり読みます。

 

 TipTapのミュージカル『星の数ほど夜を数えて』は、8月7日(月)まで上演中です。当日券も出ているとのことなので、興味のある方はぜひ。

tiptap.jp