月ときなこと宝塚

宝塚は幸せの歌

月組『応天の門』『Deep Sea』感想①

 先週、東京宝塚劇場月組応天の門-若き日の菅原道真の事-』『Deap Sea -海神たちのカルナバル-』を観ることができました。5年ぶりに生で見る宝塚は本当に楽しく、余韻が今も残っています。30日の千秋楽もライブ配信を見るつもりですが、その前に感動を綴っておきたいなと思い、ブログを始めてみることにしました。

 

 私はもう何年も、スカイ・ステージの番組や配信でしか宝塚を見ていませんでした。でも先日「宝塚カフェブレイク」の風間柚乃さん回を見て、どうしても風間さんを舞台で見たくなり、チケトレに登録して「どんな席でもいいから見るぞ」と画面に張り付いてみた(笑)ところ、2階後方の席を取ることができました。ありがとうありがとう…。

 

 劇場内の明かりが消え、開演アナウンスが始まると、わくわくして胸が震えました。在原業平・鳳月杏さんが上手花道から登場し、第一声。宝塚の声だ!とひとり盛り上がっていると、本舞台で盆が回って大きな月が…2階席後方ではほとんど見えませんでした(笑)。大きな月をバックに門の上に立つ菅原道真・月城かなとさんを見上げてみたかった。でも、ふたりの邂逅は印象的で、最高の幕開けだな~と思いました。

 その後、カフェブレでも紹介されていた佳城葵さんの酔っ払い芸を堪能し、百鬼夜行の鬼たちが怪しく現れて、映像を使った見事な「応天門」の説明ナレーションが入り、朝議の場面に。

 束帯って、大部分は黒だけども中の着物が色とりどりで華やかですよね。と思っていたら、下手花道から赤の着物の人が…。藤原基経の風間さんだ!とオペラグラスをのぞいたとたん、白い美しい横顔が目に飛び込んできました。初めて生で見る風間柚乃さん、ハッとするほど美しかった。私は元々、舞台全体を見るのが好きなほうですが、この日はこれ以降完全に風間さんを中心にお芝居を見るという、興味深い体験をしました。

 

 実は、私は男役さんのファンになるのが初めてです。長い間、途中離れた期間もありつつ宝塚を見てきて、私は常に娘役さんのファンでした(もちろん男役さんも大好き。全体として宝塚が好きなタイプでもある)。それが、昨年あたりから何となく風間さんが気になり始め、iTunes Storeにある風間さんの歌を聴き、写真集なんて買ったことないのに1stフォトブックを買い、スカステ「夢の音楽会」で彩乃かなみさんと「Me and My Girl」を歌う風間柚乃さんを見るにいたり、何だかもう大好きになってしまいました(彩乃さんも前から大好き)。配信で見た全国ツアー公演『ブラック・ジャック 危険な賭け』『FULL SWING!』ではすっかりファンになっていて、いつか舞台を見にいきたいなと思っていました。

 好きな男役さんを中心に宝塚を見るというのは、こんなにも楽しい体験なんですね。お芝居の面白さ、ショーの楽しさ、全体としての多幸感を味わうのとはまた違ったドキドキ感がありました(多くの宝塚ファンはそうして見ているのかもしれない…とあまりにも遅ればせながら気付きました)。

 

 順を追って書こうと思っていたのですが、長くなりそうなので、今日は心に残ったことだけを。風間さん以外の記憶があまりないので、感想がだいぶ偏っていますが、どうかご容赦を…。あと、内容的に少しネタバレがあるかもしれません。

 

 風間さんは言葉が聞き取りやすく(皆さんそうでしたが)、話し方や所作が美しく、表情や姿勢が絶妙で(止め絵が決まる感じ)、まあ、とにかく声が好き。そして、感情を抑制した役どころなのに、ものすごく何かが伝わってくる。

 今回観劇できると思っていなかったので、前に音楽配信で「もう一人の少年」の歌だけ買っていました。この場面、最初は回想の吉祥丸(道真の兄・瑠皇りあさん)と手古(基経の幼少時・白河りりさん)の会話なのに、途中から基経が吉祥丸に語りかけるのがとてもいいですよね。吉祥丸の「余に問う何の意ぞ碧山に棲むと…」の歌を聴くと、いつも泣きたくなります。間違いなく天に好かれて早逝してしまいそうな少年という感じがして。そして、聴いているだけで深山が脳裏に浮かび、見上げると淡い青空があって心がどこまでも広がっていくような気分になります。

 劇場で見たときも瑠皇さんの歌は素晴らしく、ああ、あの歌だ…と聴いていてふと銀橋の風間さんを見ると、いつも伏し目がちで光のない目をしていた基経が、少年のようにキラキラした目で宙を見上げていました。想像にすぎませんが、あの日、手古の目にも碧山の情景が浮かんでいて、吉祥丸の詠む詩に触れて初めて、藤原の跡取りとなるがんじがらめの境遇から一時でも離れ、心が解き放たれる思いをしたんじゃないだろうかと思ったりしました。

 でも、心の友になり得た吉祥丸は天に召され、基経は地獄へ落ちようとも権力の道を突き進む…となったのが胸に刺さります。それでも、風間さんの基経像は、この場面以外は完全な悪役に徹しているところが潔くて好き。たぶん、良房・光月るうさんに思いがけなく手古などと幼名を呼ばれなければ、基経はこのような記憶の扉を自ら開けることはなかったのだろうなと。

 風間さんの歌は、思わず開いてしまった心の隙間に戸惑っているような、湧き上がる思い出に耐えかねているような、懸命に封じようとしているような、引き裂かれた印象を受けました。もちろん私の解釈ですが、複雑な心情が複雑なまま伝わってくるというのはすごいことだなと。そして、こうした人物の劇的な瞬間に立ち会える演劇って素敵だなと久しぶりの観劇で思いました。

 

 基経が最後のほうで歌う「譬え相手が親兄弟でも邪魔する者は容赦しない」の迫力がとても心に残っています。一時でも心によみがえりそうになった少年の自分を封じ込め、道真という新たな光を得て、この人は新たな戦いを始めるんだな…と。何だか最後の大見得を切る歌舞伎の悪役のような輝きがあって、盛大な拍手を贈りたくなりました。

 そして終幕、月城さんが歌う梅の歌のあと、最後にデデン!と満月の下に藤原一族の姿が浮かび上がったときは、鳥肌が立ちました。2階席後方だと月は下の方しか見えないのですが、それでも、月と銀橋の道真と本舞台の藤原勢の緊張感ある構図がすごく絵になっていて、ブラボー!と言いたくなる見事な幕切れでした。いいものを見た。

 

 えらい長くなってしまいました。書き直そうかとも思ったのですが、久しぶりの宝塚に感激するとこういう感想になるのだ…という記録として残したいと思います。『Deep Sea』のことは改めて(最高に楽しかった!)。『応天の門』も、まだまだ印象に残っていることがたくさんあります。もう一度劇場で見たかったけれど、あとは千秋楽の配信を楽しみにします。

 こうして書いていると改めて感動がよみがえります。宝塚って、いいですね。

 

(台詞等は『ル・サンク』2023年3月号の脚本より)